正常な自閉性
近年、自閉症と診断される子供が著しく増えました。カリフォルニアでも、10年前と比べると、自閉症が5,6倍増えているとある筋は言います。これはいったいどういうことなのでしょうか。
最近は自閉症の研究も進んで、自閉症の特徴がよく解るようになりました。すなわち、診断技術もたいへんよくなったと思われます。そのために、単に重症な自閉症の子供だけでなく、もっと軽い自閉性のある子供までも見分けることができるようになったのです。ですから、中度、軽度の自閉症の子供を診断できるだけでなく、正常の分野にいる自閉性のある子供や正常と軽度の自閉症の境にいるどっちとも言えない子供も目に付くようになりました。
ですから、自閉と言うものがあるカテゴリーに存在するのではなく、程度の差を持ちながらいろいろな位置にいると考えるとよいでしょう。これを表す言葉がスペクトルspectrum
で、ちょうど光がプリズムの中を通ったときに光が周波数によって分解され赤から紫まで虹のように見えるとの同じです。自閉もいろいろな程度で正常から重症まで存在するわけです。
それで、今回は自閉の特徴の一つである「overfocusing」について考えてみたいと思います。オーバーフォーカシングとは、何かに必要以上に集中することです。何かにたいへんこだわると言うか、マニア的に一つのことに集中することです。例えば、自閉症の子がよく車や電車、または飛行機など機械にこだわって好きになり、それだけの遊びにふけってしまうことがよくあります。そのせいもあって人間関係や人とのコミューニケーションがおろそかになったりします。
正常の人の中にも、オーバーフォーカシングがうかがえる場面が結構あります。スタンプやコインのコレクションに夢中になる人もいますし、電車に興味を示し、模型や写真を撮って集めてマニアと呼ばれる人もいます。最近では、コンピューターゲームに没頭して、大量の時間を費やしてしまう人もいます。
オーバーフォーカシングのためにたいへんよい結果をもたらした例もあります。アインシュタインはある日、宇宙理論の解決にふけっていて、彼の研究所があったプリンストン大学から歩いて自宅へ向かう途中、迷子になってしまいました。気が付いたときには、自分がどこへいるのかわからず、たまたまそこを歩いていた学生に「アインシュタインの家はどこにあるのか」と聞いて、近くまで連れて行ってもらったそうです。そのような集中力、すなわちオーバーフォーカシングの癖が、彼の相対性理論を生み出した一つの要因になっていたわけです。
また、ガリレオも大聖堂 を訪ねたときに、シャンデリアが揺れているのを見て、その前で何時間も釘付けになりました。人から見れば、いかにも奇妙な格好であったことでしょう。その時彼は、振り子の原理の解決を思いついたわけです。普通なら、シャンデリアが揺れていたからと言っても、なんでもないはず。ところがガリレオはそこに興味を抱き、オーバーフォーカシングの癖が出てきてしまいました。
これらの例は、サバン症候群savant syndrome, autistic savant
とと似ているところがあります。サバンとは、自閉症やアスペルガーなどの発達障害がありながら、ある分野でたいへん優れていて、天才的な能力のある人のことをいいます。音楽の天才や絵画の天才の中には、サバンと言われている人もいます。やはり、オーバーフォーカシングに陥り、沢山の時間、エネルギーと興味を注ぎ込むことによって、普通では得られない芸術が生まれてくるのではないでしょうか。