親子の微妙な心理関係

  ある母親から、たいへん恐がってばかりいる子供の相談を受けたことがあり
ます。この子は、外に出るのを恐がるし、消防車のサイレンで脅えてしまうの
です。その上、ある日学校でトイレの水が溢れ出た経験をしてから、学校へ行
くのも恐くなってしまったということです。それで、サイコセラピーは、クリ
ニック内にいるだけでなく、遊び場などによく連れ出して行ったものでした。
最初は恐る恐る遊んでいた子が、そのうちに勇気も出てきて、ジャングルジム
などに私と登るようになりました。ある日、その遊び場のそばを消防車がサイ
レンをならして通り過ぎたのです。すると、その子は恐がることなく平気でい
ましたので、私が「ウー、ウー、ウー」とサイレンのまねをしました。その子
も調子に乗って、「ウー、ウー、ウー」と答えたのです。それをたまたま見て
いた母親は、子供の大胆さに驚きと恐れを抱いていました。
治療中に解ったことは、この子の母親も非常に恐がりで、彼女自身恐怖のた
めに生活範囲が限られていましたし、子供の行動を見ていてもひやひやしてい
ました。「子供は親の鏡のようだ」と言うように親子は心理的にもよく似るも
のです。これはある心理作用によっておこることもあります。人は自分で受け
入れられない感情を自分の意識外に圧しやってしまいます。でもそうしたから
といって、その感情がなくなるわけではありません。ある時には、無意識のう
ちにそれを他の人にのり移してしまうこともあります。これを「投射する」な
どとよぶことがありまが、親子の身近な関係では投射がよくおこります。それ
で、親が一番嫌な感情、例えば恐怖を子供に投射してしまうのです。すると親
は子供が恐怖を感じていると思い、その恐怖から子供を守るために、子供にい
ろいろします。そうしているうちに、恐怖のある子供を育ててしまいます。こ
のような過程を心理遺伝とよぶことがあります。肉体的な遺伝と同じ様に親の
性格が子供に伝わるわけです。
あるお母さんが、「うちの子は人前でいつも恥じを気にしていて、なにもで
きないんです。私も特に恥じに敏感だっていうのに、、、この子はそうであっ
てほしくないわ。先生、恥じも遺伝なんですか。」「さあね、どう思いになり
ますか。」
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