愛と悲しみ
 TMさんは、43才の既婚男性です。今の奥さんとは5年間結婚しています。
これは彼の2度目の結婚なのです。最初の結婚は12年間続きました。その結婚
は恋愛から始まり、前半の6年間位は楽しい生活でした。「前の妻は私の面倒み
がよくて、かわいい女でした。今でも彼女のことをそう覚えていたい。」とTM
は悲しそうな顔をします。
 彼の12年の結婚生活は悲劇に終わってしまったのです。ある日彼女は変なこ
とを言い出しました。「隣に住む人が、私がトイレに入るのにあわせて、むこう
で水を流している。なぜ、私を監視しているのだろう。」TMの否定や説明は効
果がありませんでした。彼女の妄想はますます悪化し、自分の夫であるTMまで
疑うようになりました。「家にいては、警察から尋問を受けているよう。仕事場
まで電話をしょっちゅうかけてきて、彼女にとって不信なことを問いただすよう
になった。」一度専門家に見てもらうようにとTMは何回も妻に頼んだのですが、
彼女の方は、「自分は正常」と言い、断固として検査を受けませんでした。TM
の生活は、ますますめちゃめちゃになっていきました。このままでは、彼女だけ
でなく、自分の生活まで破壊に導かれると判断し、罪悪感と悲しみを背負ったま
ま離婚をしました。
 そして、3年後に今の奥さんと巡り会い、新しい結婚生活が始まったのです。
TMは長い間、悪夢に悩まされました。前の妻に追いかけられている夢を何度も
何度も見ました。夜中に叫びながら目を覚まし、横で寝ている妻を驚かしたこと
もたびたびありました。夜中に目を覚まし、1、2時間後にまた寝付くまで、前
の妻に対する罪悪感と悲しみに襲われ続けたのです。彼は決して彼女を見捨てた
わけではないのです。毎月の生活費も送り続けましたし、たまには訪ねて彼女の
様子を見に行きました。彼女の親戚も世話をしていました。
 TMは今の奥さんをいっぱい愛しています。一度目の結婚生活を思い出して、
今の生活をありがたく思えるのです。今の奥さんに対する愛情は、その背景に沢
山の悲しみがあり、それによって守られているのです。
 愛情は人間二人を引き寄せるものです。そしてその愛情の強さは、それを保つ
ために必要な努力、困難、そして犠牲によって高められることがあります。TM
の今の幸せは、彼を取り巻く悲しみによって、たいへん尊いものになっているの
です。
MENUへ戻る